知識と体験

 
宮崎駿監督がiPadについて語ったインタビューが話題になっています。
http://blogs.itmedia.co.jp/yasusasaki/2010/07/ipad-ab70.html

 別エントリで、これについてどう思うか聞かれたのですが、既に一昨日Twitterに書いています。
http://twitter.com/abfly/status/18332116466
記事:宮崎駿監督iPadについて「ぼくには、鉛筆と紙があればいい」と語る - 僕は鉛筆もiPadも好きだ。でも資料がネットで大量に手に入るようになったせいで資料に振り回させる怖さは感じる(振り回される、ですね。誤記)。

 もう少し詳しく書きます。
 宮崎監督の意見に対しては、同意する部分とそうでない部分と半々です。

『知識として知っている』と『自分の身体を経由して体験している』というのは全く別物なのですが、ネットのせいで、いろいろな事に対して『体験してないけど知ってる』という人が(自分も含めて)増えたように思います。
 でも、体験を伴わない知識というのは使い方を誤ると自分の価値を見誤って、自分を実力以上に優れた人間だと思い込んで他者を見下したり、誰かの成し遂げた事に対して、そこに含まれる努力の量を計り損ねて、人を尊敬したり感謝したりできなくなったります。

 もうひとつ重要な点として、身体を経由した体験は新しい発想を生み出すけど、ただ知識として知っただけの事からは、基本的には何かを生み出す事はできない、という事です。情報として知っているだけの知識にできる事は、自分が思いついた新しいアイデアが間違っていないかどうかチェックする事だけです。
『そんな事はない!』と思う人もいると思うのですが、自分の思考を丹念に辿ってゆくと、概ねそのようになっているのではないかと思います。
 例えば、銃を撃った事がない人が、本の知識だけで銃を撃つシーンを描く時、どれだけ必死に知識だけで全体を固めようとしても、創造の核になるのは子供の頃水鉄砲を売った時の事だったり、モデルガンを構えてみた時の事だったり、とにかく身体を経由した体験です。人は、身体感覚を伴う何かでなければ、本当の意味での創造の起点とする事ができないのです。少なくとも僕はそうです。

 もちろん知識が無意味だと言っているのではなく、空想の後押しをしたり、小説や漫画や映画やニュースに全身全霊を傾けて感情移入する事で、体験と言っていいような何かを得る事もあります。でも、その共感を発生させるのもやはり自分の身体感覚なのです。

 だから、ネットで簡単に情報が手に入れられる、という事と、自分の身体を通して何かを体験する事は全く別な事で、それを混同すると、ちょっとおかしな事になります。なのでiPadで簡単に資料を取り出せる、というインタビュアーに対しての宮崎監督の答えは、なるほどそうだな、と思います。

 ただ、だからこそ宮崎監督にはiPadを使ってみて欲しかったです。体験しないと分からない事が多いですから。記事からはiPadは情報を消費するツール、と即断されているように読めましたが、iPadは絵を描く、文章を書く、作曲するなど、創造のためのツールという面も大きいので。

 これは誰かに向けてというより、自分に対しての言葉だけど、知識は壁で、体験は柱なのだろうと思います。柱だけでは家は建たないし、壁だけだと押しただけで倒れてしまう。知識に頼って描いた創造物はたいてい脆い。
 情報過多のネット社会に対応するには、情報を遮断するというのも手ですが、個人的には、単なる文字の羅列に過ぎない情報を、自分の身体感覚に置き換えて咀嚼する能力を鍛えるという方向で何とか対応していきたいなあと思っています。それがこの時代に生まれた人間が創造的であるために必要な技術だと思うので。
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テーマ : 思ったこと・感じたこと
ジャンル : 日記

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No title

ものすごく共感しましたので、コメさせて頂きます。
自分には文才能力があまりないので上手く感想書けませんが、無駄なく分かりやすい日記だと思いました。

「でも、体験を伴わない知識というのは使い方を誤ると自分の価値を見誤って、自分を実力以上に優れた人間だと思い込んで他者を見下したり、誰かの成し遂げた事に対して、そこに含まれる努力の量を計り損ねて、人を尊敬したり感謝したりできなくなったります。」
恐ろしい位、身の程知らずな人に会うことが増えました。

「知識は壁で、体験は柱」
例えば、勉強が出来ることと、実際に仕事が出来ることは違うのは多くの人が分かっているはずなのに
実際は、肩書きに左右されている。
目に見える記号は分かりやすいですから、それで判断するのは分からなくもないのですが、、、

現代だからこそ、使った上で使われずに創造していくのは、絶対ではなくても必要な能力だと思います。
そんな訳で自分は、何の知識もないのにツイッターとかやったりしてるのですが(笑)

安倍さんのレビューや記事は本当に分かりやすいので、いつも参考にさせていただいてるのですが、
この日記は現代、とくに今の日本人にはタメになる内容だと思いました。

まとまりのないコメですいませんでした。

No title

 はじめまして。ほんの知識の聞きかじり、知ったかぶりな私としては、その書かれている内容はかなり重たくj感じました。

 やはり、実体験に勝るものはないと思いながらも、本で得た知識を優先しがちな自分がいるだけに・・・。

 まぁそれを鑑みても、宮崎駿氏の発言は近所の雷爺さんの発言と大差ない感じがします。

 
 携帯電話が出始めたときの携帯電話害悪論などが散々言われましたが、実のところ一番マナーがなっていない使い方をしているのが中高年だったというオチがあっただけに。

旅をすること。

はじめまして01Aです。
ジョブズさんも宮崎さんの立場なら同じことを言ったかもしれない。
見る聞く触る嗅ぐ行くそして感じるのはアナログな情報だけだから宮崎さんの気持ちはわかります。
でもジョブズさんもアナログな情報で感性を磨いた人なんでそれを武器にiPadを作ったですけどね。
だから自分は出来るだけアナログな情報を取る事に努力してます。
彼らみたいになりたいしね(=+=)



No title

どうも、はじめまして。
安倍さんの意見、同感です。
自分はipadを使うということ自体が、他ではできない素晴らしい体験のひとつでした。


No title

自分の慢心に気づけました。しっかりした家を建てていこうと思います。

あなたの行動と矛盾した記事だと思います。自分はインターネットで会ったことの無い他人の全てを知ったかぶりして見下してるくせにね。自分の正当性を何故そんな誇示したいわけ?そして、それを受け入れてくれる人の中でしか生きていないくせに。

No title

「iPadは情報を消費するツール、と即断されているよう」結局情報だけで決め付けてかかってる。
それに、絵を描く、文章を書く、作曲する、どれも別にipadじゃなくても経験できるでしょ。
プロフィール

安倍吉俊

Author:安倍吉俊


イラストレーター。漫画集『回螺』、画集『垓層宮』発売中。
ガンガンONLINE『リューシカ・リューシカ』連載中。
代表作『lain』『NieA_7』『灰羽連盟』『TEXHNOLYZE』
Macユーザー。カメラと自転車好き。爬虫類と魚を飼育中。
何かありましたらabetc*mac.comまで(*を@に変えてください)。

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