今やっている仕事の紹介とちょっと訂正

 
 4月にシアトルで開催されたサクラコンというコンベンションにゲストで招かれて、今後の仕事について少し話をしたのですが、こちらのサイトでその時のパネルの様子が紹介されています

 で、この時は通訳の人がわりとしっかりと日本語が話せる人だったので、つい早口で、長く話してしまったために(通訳してもらうときは、ふつう話を時々切って『とりあえずここまで訳してください』みたいにして話を細かく分ける)、いくつか間違いがあります。
 まあ、話し言葉なので不正確なのは当たり前なのですが、作品名や人名の間違いだけ訂正しておきます(現在は訂正されています。対応ありがとうございます)。
●新作のタイトルが『デスペラント』となっていますが、『ですぺら』が正しいです。『Desperado(ならず者)という意味の言葉を縮めたものです』と話したのですが、ごっちゃになってしまっているようです。アニメ化が確定しているわけではないですが、まあそれを目標に企画を進めています。近いうちに正式な発表があると思います。ひらがなで『ですぺら』が正しい表記になります。

●影響を受けた、画家、イラストレーターさんは居ますか?という質問に対して。藤井浩ではなく、冨士宏さんです。中学の頃に読んだ『午後の国物語』という漫画に影響を受けました。

●村上春樹から影響を受けたか?という質問に対して。通訳の人が『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』というタイトル名を知らなかったからだと思いますが、ちょっと変な受け答えになっています。正しくどう答えたかは憶えていませんが、僕は空想癖のある子供で、ずっと『自分の頭の中に架空の街がある』という空想を抱えて子供時代を送っていました。17歳の時、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を読んで、内容がまさに自分の頭の中に架空の街がある、という物語だった事と、その街の描写が自分の頭にあった架空の街とかなり近かったために、強い衝撃と影響を受けました。灰羽連盟は自分の無意識を反映した物語で、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』に強く影響された僕自身の無意識を描くという意味で、『門番』や『図書館』『西の森』といった単語だけ、ある程度意識して似せています。

●TEXHNOLYZEのキャラクターデザインで、何か別のから影響を受けたものはありますか?、という質問。確か、TEXHNOLYZEはキャラデ以外に何か仕事をしたか?という質問だったと思います。

●気に入っているMacについて。『QEMU』という単語が何度か出てきますが、『G4Cube』の聞き違いです。滑舌が悪くて申し訳ない。

●アニメに使う楽曲と声優さんの選び方について。上田さんがものすごい独断でやっているような書き方になっていますが(笑)、楽曲に関してはまあそうなんですが、声優さんに関しては僕はオーディションテープを聴いて選んでいるのですが、上田さんは各声優さんのそれまでの仕事を知っていて、芝居の傾向とか声の幅みたいなものを考慮して、例えば回想シーンで子供時代が出る事を考えるとこっちの人がいい、とか、予算とかスケジュールとかいろいろ考えて決めているので、僕は一応候補は出すけど決定は上田さんがしていましたよ、という話です。

●リューシカ リューシカ3D版について。翻訳が飛び飛びになっていて(僕が話を切らずに長く話しすぎたため)、分かりづらいですが、リューシカの3Dモデルを使って短編アニメがつくれないか、という実験をしていて、3Dモデル、2Dセルアニメ、僕の手描きの絵、の三つを組み合わせてできるだけ低コストで観られるものをつくれないか、といろいろ試しています。この三つの中で一番不安が大きいのが僕の手描きの絵で、僕は描くたびに顔が違ってしまうので………という話でした。

●lainについて。『uedaさんが「人間はこれから自分の体がいらないと思うようになるだろう」ということを最初に言ってました。』という発言について。上田さんがそう思っていたのではなく(あたりまえだ)『体がいらないと思うようになった人の話』を描こうとしていた。です。

●イラストの勉強をしている人にアドバイス。大事な話なので、補足してきちんと書きます。
 僕がプロになれた一番の理由は、今にして思えば、僕が絵がものすごく下手だった事、才能が全くなかった事が良かったんじゃないかと思います。プロになるためのごく初期の段階での話ですが、自分が『何故できるのか?』という気づきなしに何でもできてしまう人、要するに才能がある人、センスがいい人、というのは、結局、自分の内面と深く対話する必要性が薄いために、自分が何故それを描くのか、何故その色を選ぶのか?といった自分自身への問いかけの重要性に気づきづらいのではないかと思います。
 19歳の時に初めて絵を描き始めた頃、僕はとにかくもう、目も当てられないくらい色の感覚が悪く、形のとり方も癖っぽく、1年予備校に通って、予備校の全国コンクールでビリから8番目、というくらい下手でした。
 そのために、僕は自分が何故その色を選んでしまうのか、自分の中の何がその色を選ばせてしまうのか、と言った事を延々と考えなければなりませんでした。結果として、人間というのは(というか僕は)無意識に、自分が傷つかなくてすむように目の前の現実をねじ曲げて、自分が見たいようにしか物を見ないのだ、という事に気づきました。自分の無意識は、宿主である自分自身が傷つかずにすむように、常に自分自身を騙しています。
 例えば何時間もかけて描いた石膏デッサンの形が狂っていた場合、その事実を直視してしまうと自分が傷つくので、無意識はそれを回避するために『本当は形は狂っていないよ』という嘘をつくりだして自分を騙します。他人の絵の間違いには簡単に気づくのに、自分の絵のおかしい部分にはなかなか気づく事ができないのはそのためです。

 絵を描くというのは、常に自分の無意識をモニタして、無意識が自分に都合のいい嘘をつくり、ストレスを回避しようとする瞬間を捉え、その無意識をねじ伏せて、自分と自分が描いたものの正しい姿を直視する事です。自分の意識の中にある無数のOFFになっているスイッチを、コツコツと一つずつONに変えていく事です。

 僕は非常に欠陥の多い人間ですが、どうやら絵においては、欠陥の多い人間ほど成長の余地があるのではないか、と思います。というかまあ、思う事にしています。
 絵のうまさは、その人の心のスイッチがどれだけたくさんONになっているかで決まりますが、絵のよさは、その人が生まれつきOFFになっていたスイッチを、長い戦いの中でどれだけたくさんONにできたかで決まるからです。
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勉強になります。
思いや、あるイメージ等を言葉に置き換えるのは難しい事ですよね。

僕も安倍先生の話を直に聞きたいです。

あ、blogいつも見てます。全てに影響されてます。
HDR合成もしてます。

関係無いですが、僕も浪人して色々あって2年経ってから芸大に行きました。
僕はノイズというか前衛音楽というか、何と言えばいいのか分からない音を作ってますが。
表現って一体何なんでしょうか?

安倍先生の作品や考え等全てに影響を受けてます。
何かお手伝いしたいです。何でもします。
本当に弟子にして欲しい限りです。


いきなり調子に乗ってコメントしてしまい、すみませんでした。
長年ROMってきましたが、何か本当に申し訳無いです。
迷惑と分かっててもこんな残念なコメントしてしまいました。

微力ながら応援してます。すみませんでした。


手がかなり震えてタイプするのに時間掛かりました。
その位自分にとって安倍先生は大きい、怖い存在です。

それでは、本当に申し訳ありませんでした。

いつも調子に乗ってコメントしてしまいすいません。が自重しません

>表現って一体何なんでしょうか?
私は表現は結局のところ自己満足なんだと思います。自分が思ったことを表現するのですから
自分の思うこと感じたことを言葉や文、絵の具や譜面に現すのが最初の表現なんじゃないでしょうか?
自分の思ったことを書かずに人に合わせるだけの物を作ったらそれは芸術ではなくなってしまうのではないかと思います。表現ではあるかもしれませんが
逆かな?芸術だけど表現ではないのかな?

プロの方になるとユーザーや相手がいるから言い切れないかもしれませんががが
そう考えると宗教画とか描く人はなに考えて描いてるんでしょうね。殉教者でしょうか?(ぉ

×冨士弘
○冨士宏

おおすごい!!  wiiのゲームが斬新でおもしろそう。wii持ってないので買おうかな。 
アニメの方はまだ公式サイトはないみたいですね。 はやく見てみたい。楽しみにしています!

思い出したんですが、冨士宏先生は初期の頃は冨士弘名義だったかなと。
記憶が曖昧で申し訳ないのですが、とりあえず上の訂正は無かった事にしてください。
大変失礼しました。

>ぐぬぬさん
 ご指摘どうもです。僕も中学の頃の記憶で曖昧なのですが、最初の版の午後の国の単行本がもう宏になっていたので、訂正しました。

安部さんの絵に関する考え方には、僕も下手くそで(今でもですが)予備校時代に死ぬほど悩んで描いていた経験があるのでかなり共感できます。自分は何が好きとか、何でそう見えないのかとか周りに早く追いつきたくて僕も必死でした。

サイト拝見しました。
最新アニメでlainスタッフとはwktkが止まりません!
小中さんuedaさん安倍さんスタッフの作り出す世界にまた浸れるのが楽しみです^^

最近安倍さんのことをしり調べてblogまできました。自分は高校3年で進路とか悩んでます。描きだされる世界観が好きになりました。安倍さんの仕事応援してます。頑張って下さいo(^-^)o

こんにちは。
安倍さんのイラスト観からはいつも良い影響をいただいて
絵を楽しむ幅が広がります。どうもありがとうございます。

私は、自分の絵を客観的に見れない理由は、
描き上げていく過程で「この物体イコールこの線だ」と
自己暗示を無意識にかけているからで、
他人の絵は描き上げの過程をスキップしているから客観視できる、
と思っていたのですが、
絵を描く理由がひとりずつ違うように、
それにも十人十色の原因がある、ということでしょうか…。深い。

はじめまして。
安倍さんの思索的な長い文章、とても好きです。

最近、ルーティンワークにゲーム性を見出すこと、ひいては人生自体をゲームとしてとらえることで人生が面白く加速していくのではないか、と考えて、絵を描くプロセスをパズルゲームっぽいなあと感じてみたり、就活で履歴書を書きなおすプロセスがシューティングゲームっぽいなあと感じてみたりしていました。

安倍さんの画論とこの考えをすり合わせると、人生というゲームの攻略対象は自分自身である、という発想に行き着きます。「なぜ、なぜ」と考えていくことで事象を深く抽象化するプロセスは正に「攻略」と言え、しかもそれはとてつもなく深くエキサイティングなものです。

安倍さんの画論はいつも僕に新しい発見を与え、僕の道を切り開いてくれます。

ちょっと疑問

才能のある人だって沢山悩みます。
どんな人だって悩むのです。

絵が下手だからよかった
ではなく…
その事に気づき努力した ことが何よりもすごいことなんです。

大変失礼だとは思ってますが…
私はあなたの事は存じません。

たまたまたどり着き、
目を通したものですが…
どうしても納得いかない。


私も同じイラストを描く身として
思うことは…
何よりも知ること、それから自分との対面。

伝えようとすることはわかるんですが…
センスや才能のある人を一方的に切り離す様な言い方は良くないと思います。

そう言う人だって
自分の本当の良さに気付けず悩んでいたりするのですから…


失礼しました。

>ЯКさん
 言葉が足らなくてすみません。文中で断っているとおり、これは絵を描き始めたごく初期の段階での話、です。
 おっしゃられているように、才能のある人にはその人なりの悩みやつまづきがあり、それが気づきや成長の起点になります。ただ、それはわりと先に進んだ時に起こる事で、そういう人は最初の伸びが早かったぶん時間をかけて悩む余裕がある場合が多いので、アドバイスは余計、というか一人でじっくり悩んだ方がいいように思います。
 まあ、これも個人差のある問題ですが。

 僕が言いたかったのは、書いた通り、ごく初期の段階でつまづいてしまった人に対して、『そこを踏ん張って超えるとその最初のつまづきが武器になってくれるよ』という話で、そこで悩む人に対しては、僕は実体験を踏まえて助言できるので、まあその事が書きたかったのです。

 この文章を書いた時、ЯКさんのような読み方をされる方もいるかと思って、『まあ、才能のある人にもどこかで躓いて同じ悩みを持つものですが』と書き添えようかとも思ったのですが、そこまで話を広げると主題がぶれてしまうので、『ごく初期の段階での話ですが』と断りを入れるだけにしました。

 うまく伝わらなかったみたいですみません。

ご回答感謝します。

こんな通りすがりな私に、ご回答ありがとうございます。

わかります。
わかるんですが…
文中に "まぁ"とか"助言"とか どうも上から目線な見方が鼻につきます。

ファンの方からはこんなことは気にならないでしょうが…
ネットではいろんな方が目を通すのですから…あまり私語を多様しては 本当に伝えたい部分が伝わりにくくなります。

…私には安倍さんの様な立場ではないので、経験は語れませんが…始めから自分に才能があるなんて自覚してる人なんていません。

それは他人から言われて気づくことです。
だから自分の画力が先にいってるだとか、悩むことに余裕がある…といったことは自分ではわからないのです。

なので阿部さんの経験談だけを伝えてくれたらうれしかったんですが…
それをあえて才能のある人と比較したことに私には残念にみえたした。

それだけが伝えたかったので…

これからもお仕事頑張ってください。
失礼しました。

>ЯКさん
 ちょっと誤解されているようなので、お手数かもしれませんが、できたらどういう経緯でこのエントリを書いたかだけでも確認していただけるとありがたいのですが………。
 リンク先のページも別に消えたりしていませんし。

 一応簡単に説明しておきますと、これは僕が海外のコンベンションにゲストとして招かれて、そこで行われたパネルディスカッションで、『作家志望の若い人達に何かアドバイスを』という発言を受けて、その返答として話した事です。なので『助言』という言葉が上から目線だ、と言われても…………。

 元々の発言は、そのコンベンションの場の空気からして、自分の将来を不安に思っている作家志望の若い人達に何かアドバイスを、という感じだったので、確かにそういう人達に向けての言葉になっていると思います。ただ、そういう前提での言葉ですし、その事は分かるように説明したつもりです。

 御理解いただけるといいのですが。

 でも、上からものを言っているように見える、というご意見については、そう見えてしまう事もあるのだ、という事を自分でも真剣に考えてみます。
 自分がプロの作家であるという事があたりまえになって、気持ちがゆるんでいるのかもしれません。
プロフィール

安倍吉俊

Author:安倍吉俊


イラストレーター。漫画集『回螺』、画集『垓層宮』発売中。
ガンガンONLINE『リューシカ・リューシカ』連載中。
代表作『lain』『NieA_7』『灰羽連盟』『TEXHNOLYZE』
Macユーザー。カメラと自転車好き。爬虫類と魚を飼育中。
何かありましたらabetc*mac.comまで(*を@に変えてください)。

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