モネの絵は離れて見ないと何が何だか分からないですよ。

 
 モネ展を見てきました。すし詰めみたいに混んでいるかと思っていたのですが、そこまでの混み方ではなくて、わりと落ち着いて楽しく観賞できました。
 僕は元々、モネは特に好きでも嫌いでもないというか、なんかほんわかした絵の人、というか、現物見たらなんかタッチがばらばらと荒くてどうも……というくらいの印象しかありませんでた。僕は、画集で見たあとで現物を見てなにか新しい発見がないと、その作家に興味がなくなってしまうので、モネはその時点でわりとどうでもよくなってしまったんですが、ちょっと前に、どこかの美術館で疲れて椅子に座っていた時にふと、ひとつ隣の部屋の壁に掛かっていたモネの睡蓮の絵を見て、ものすごい衝撃を受けました。とてつもなく複雑で豊かな色彩と水面の柔らかな空間、そして水面に浮かぶ睡蓮の、まさに水面に浮かんでいる、という迫真性。
『すげー細密!……そうか、いままで自分が見てきたのはモネの中でも雑でダメな絵で、いい絵はこんなに細密ですごい絵だったのか!』

 と思って、隣の部屋まですっ飛んでいって絵の前に立ったらさらにびっくり。
『………すんげー雑』

 子供の落描きみたいないい加減な筆跡、がさがさの水面、見当外れの色がポコポコ入っていてうっとおしいし、あんなにリアルだと思っていた睡蓮は、ふにゃふにゃの筆致でてきとーに描かれた、睡蓮をあらわすらしいべしゃっとした色面と、その下にひかれた水面との接点をあらわすらしい暗い色の線だけ。しかも絵の具が足りなくてかすれてる。なんだこりゃ。
 狐につままれたような気持ちになって、もう一度隣の部屋まで戻って、ふと振り返ると、やはりとてつもなく緻密な描写の睡蓮と、複雑で柔らかな水面の素晴らしい作品。
 で、一歩ずつその絵に近づいていって分かったのですが、モネの絵には、全ての要素がドンピシャではまって、ものすごくいい絵に見えるポイントというのがあって、それ以上近づくと、筆跡が見えてしまって、それまで無数のタッチが組み合わさって構成されていた画面上の個々のディテールや空間を表現するための要素が、なんというか『ほどけて』しまって、まるで魔法が解けるみたいに雑で平板な絵に見えてしまうようです。

 その事が分かってから、モネの絵を見るのが非常に楽しくなりました。まず近くで見て『うわー雑だなー。やる気あんのか』と思ってから、一歩一歩下がって、『ディテールは分かるけど筆跡は見えない』という距離になった瞬間、がさがさの筆跡が複雑な色彩のグラデーションになり、それがものすごく豊かな空間表現になったり、近くで見ると、海面を現す青のタッチの中に『おい!塗り忘れてんぞ!ジジイ!』といいたくなるようないい加減な白い余白があるようにしか見えないのが、一歩一歩離れていくと、それが突然海面に浮かぶ船の帆になり、しかもその形のいい加減さがちょうど『数百メートル離れた海面に浮かんでいる船の帆』を的確に表現していたり、もう完全にトリックアートというか、手品の世界です。超おもしろい!
 バッチリの位置よりちょっと前に出ると、タッチがかすかに見えて、荒くなるけど絵画的な味わいが増してこれもなかなかいいです。逆に、一歩下がると、荒いタッチが混じり合ってつくりだす絵画的な空間と、額縁の外側の現実の空間(というか距離感)がずれているせいで、まるで額物の中に『どこでもドア』があるみたいに、モネが絵を描いていたその時代のその空間に繋がっているみたいに感じられて、それも楽しいです。これは絵の具を使ったリアルな絵画でなければなかなかできない表現で、やはり本物の絵はすごいな、と思います。
 こういう見方は芸術的ではないのかもしれないけど、少なくとも、晩年のモネは白内障で失明寸前だったらしいので、モネが感じた世界を共感するためには、僕らは画面上の個々の筆跡が判別できなくなり、ひとつひとつの筆跡が混ざり合って複雑な色面が立ち上がってくる位置まで、離れてみる必要はあると思います。

 長々と書いたのは、今日僕が見た範囲では、みんな絵の前に立ってしかめっ面で絵を見ていたからです。絶対下がって見た方がいいです。展示する側も、下がれるスペースをうまく設置した方がいいです。
 視力に個人差があるのでなんともいえないけど、前期の絵で3~8メートルくらい、1900年以降の絵では、10メートル以上は下がらないと、正直言って何だか分からない雑な筆跡がのたくっている絵にしか見えないんじゃないかと思います。

 そんなわけで、これからモネ展に行く人は、是非ひょこひょこと近づいたり離れたりしながら見る事を奨めします。
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はじめまして

それ、CGでもありますよ
一番端的なのはドット絵
拡大するとなんだか分からなかったり

イラストでも、ギャラリーのサムネールが非常に奇麗で
これはと思ってクリックすると子供の落書きみたいな絵だったりとか

これは「表現」では無いですね
失礼しました

モネ展込んでるだろうと思いまだ行ってなかったのですが、
読んでて行っちゃおうかなって気になりました。
昔からモネ好きなんです。
鑑賞のポイントも分ったし、さらに楽しめそうでワクワクです。

はじめまして。
最近モネ展へ行ってきた者です。
モネと白内障について検索していて、こちらへ辿りつきました。

>『おい!塗り忘れてんぞ!ジジイ!』
ウケました(笑)

絶妙なポイントがあるんですね!!
私ももう一度行って、体感したくなりました。
プロフィール

安倍吉俊

Author:安倍吉俊


イラストレーター。漫画集『回螺』、画集『垓層宮』発売中。
ガンガンONLINE『リューシカ・リューシカ』連載中。
代表作『lain』『NieA_7』『灰羽連盟』『TEXHNOLYZE』
Macユーザー。カメラと自転車好き。爬虫類と魚を飼育中。
何かありましたらabetc*mac.comまで(*を@に変えてください)。

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