初音ミクの聴き方が少し分かった

 
 初音ミクがブレイクしてもうずいぶん経ちますが、僕は元々音楽を聴く習慣がほとんどない上に、ニコニコ動画とかも、自分のペットの画像を時々アップするくらいで、観る方は全く興味がないので、ボーカロイド関係は全くスルーしていたのですが、試しに聴いてみました。

 正直なところ、歌として聴くには、どう頑張ってもマシンボイスだし、こういう歌唱データをつくるのは大変なんだろうけど、でも率直に言って歌としては下手ですよね。少なくとも、普通の意味での歌唱力という点では、こんなのが商品になるなんてどうかしてる、と思いました。

 まあ、情感がこもっていないぶん、仕事しながら背後で流しておくぶんには邪魔にはならないので、そのまま流し聴きしていたのですが、ある瞬間に、まるで冷たいものを突然首筋に押し当てられたみたいに、歌声に強く注意を引かれました。

 それは曲の良し悪しとか、詞の問題ではなく、僕は無意識のうちに、背後に流れている音楽に対して、『生身の人間が歌っている』という仮想を思い浮かべていて、その仮想が歌声にカチッとはまった瞬間、無機質なマシンボイスが、生身の人間が完全に心を無にして歌う歌声のように聞こえたからではないかと思います。

 そんなわけで、改めて『初音ミクという架空のキャラクターがどこかに実際にいて、これを歌っている』、という仮想をキープしたままアルバムを聴き直してみると、イントネーションの稚拙さや抑揚の乏しさが、まだ生きるために言葉を使ったことがない無垢な知性体が懸命に言葉を繰っているように聞こえて、面白かったです。
声の印象が『無機質で感情移入のしようがない』から『無色透明なのでどのような感情を仮託することもできる』に変わった感じです。

 おそらく初音ミクを支持している多くの人は、当たり前のようにパッケージのあのキャラクターが実際に歌っている、という仮想を持つ事ができているのでしょう。
 そういう意味で、あのキャラクターの存在は大きいな、と思いました。
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ミクのことをそこまで真剣に考えたのは安倍さんが最初で最後だと思いますwww

まあ、マンガとかアニメでも基本そうですよね。
フィクションの楽しみ方というか、人の感性はどうしても先入観で左右される。

ただ、歌唱力云々についてはただの好みの問題でしょう。
歌い方の好みなんて千差万別ですし、
安倍さんも最初「機械の声」という先入観があったから
>どう頑張ってもマシンボイス
にしか聞こえなかったんじゃないでしょうか。

そしてみかんくいますよ の下りが
くそしてみかんくいますよ に見えるのは俺だけなのか・・

昔、多少音楽を趣味でやっていたので初音ミクの歌をきいて、そのレベルの高さに驚きました。
初音ミクのボーカルをきいて感動したという意味ではなく、他の楽器と異なり、人間の声をコンピュータで再現するのは技術的に非常に高度だからです。
現状はネタ的に使われているだけかもしれないですが、そのうちコーラスくらいには利用できるレベルに達するのではないかと思います。
実用性という意味でメインボーカルになるのはもっとだいぶ先かもしれませんね。
そもそももし可能になったとして、現実のボーカルが自分の声を制御しているのと同じ情報を入力しなくてはならないわけですから、そういう意味でもメインボーカルとなるのは困難かもしれません。

話はちょっと変わりますが、バーチャルアコースティックというものがあります。
これは録音した音を再生するのではなく、楽器を物理的にシミュレートして音を作り出す技術です。
理屈からいえば細かく情報を入力すれば、本物の演奏とほぼ同じレベルになるのですが、その入力が非常に困難です。
(ピアノなどの音が減少するものであるなば入力は比較的容易ですが)
この技術がどのように利用されているかといえば、奏者に電子楽器をひかせて情報を得えて、その情報をもとにシンセサイザで音をならします。

初音ミクの技術の発展はこいう方向になるのではないかと僕は考えています。
現実のボーカルが歌って、その情報を得て、その情報をもとにシンセサイザに歌わせる、そういう方向性ならそれなりの結果が得られるのではないかと。

今の初音ミクの仕様だと人の心にうったえかけるのは難しいでしょうね。
なぜなら、音符、音の強さ、歌詞、ビブラート、それだけの情報しか入力していないのですから。

友人にミクを聴かせてみたのですが、聞きづらい以外に特にこれと言った感想がなかったです。
まあ普通の人の感想はそうなんでしょうね。
逆に機械の声のCDが売れるのを不思議がっている人もいます。

私はミクは手書き出版から活版印刷になったぐらいの衝撃だと思っています。
どちらも同じ文字なので読み手側にはその重大さが理解されにくいし、ましては活字になって手書きより無機的と批判されるわけです。
でも作り手側に与えた影響は大きいと思います。それはミクのオリジナル曲の多さからも伺えます。

私は単に聞き手ですが、ミクの誕生に遭遇したことをうれしく思っています。

情報を受け取る側の気分次第で、その感じ方は大きく変わりますからね。
どんな下手糞な歌でも、受け取る側が対象に意味を付加する事で、心動かす歌に変貌を遂げるのはザラです。

>声の印象が『無機質で感情移入のしようがない』から『無色透明なのでどのような感情を仮託することもできる』に変わった感じです。

この前NieAのオープニングでおなじみの、SIONさんのライブに、SIONもNieAも全く知らない姉を誘って行ったのですが、同じ様な感想を言っておりました。

 「SIONの歌声は非常に聞き取りにくいし感情移入もできない。しかし頑張って聞き取ろうとすると、脳内で自分の声に変換して反芻するようになる。そうやって聴くことで、歌詞の持つメッセージが驚くほど心に染み渡って行くのを感じた」

 とかなんとか。無機質なミクの声と生々しすぎるSIONの声、何もかもが違う二つの声が、心まで届くのに同じプロセスをたどってるとしたら面白いですね。

 あと姉は「最初オッコトヌシが出てきたと思った」ともいっておりました。

これって俗に言う「テクノ耳」ってやつと同じことじゃないですかね
それまで単に機械音にしか聞こえなかったものが、ある日突然
「音楽」として聞こえるようになる

声優の歌声を自由に加工可能にしたソフトウェアと、機械少女のイラスト。本来全く関係の無い二つを一つのパッケージとしたのは、声があるからには像があるはずという人間の意識を逆手にとった凄い離れ技だったんじゃないでしょうか?本来声優さんの姿があるべきところにミクの姿を代入する。まあアニメじゃ当たり前の行為ですが、像→声ではなくて、声→像を製品化したのが新しいところでしょう。ミクは機械じゃん、という批判は一番ミクの術中にはまっているのでは、あれはもともと人の声ですから、そりゃ歌も歌うし、みかんも食うでしょう。

VOCALOID自体がどうこうというよりですね、
「最近音楽つまんないよね(芸人の歌が一番のヒットとか)」と思っていたところにアレが来て、無数のアマチュア作曲家が曲を投稿し、絵師が絵を描き、PVが作られ・・・ なんか3Dになって踊ったり漫才したり・・・

そうした"動き"がおもしろく、だからこそ才能ある人たちが労力を注ぐ。
マシンボイスかどうか、っていうのはほんとどうでもいいことですよ。

仕事を選べないけど持ち歌は凄い数だねw

なんかlainみたいですね
プロフィール

安倍吉俊

Author:安倍吉俊


イラストレーター。漫画集『回螺』、画集『垓層宮』発売中。
ガンガンONLINE『リューシカ・リューシカ』連載中。
代表作『lain』『NieA_7』『灰羽連盟』『TEXHNOLYZE』
Macユーザー。カメラと自転車好き。爬虫類と魚を飼育中。
何かありましたらabetc*mac.comまで(*を@に変えてください)。

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